「99%のための社会契約」…いつもの会社近くの本屋に目立つように面陳列されていたので読んでみました。
普段は手にとることがなさそうな難しいタイトルだったのですが、仕事でちょうど契約書のチェックをしていたので目に留まったのかもしれません(笑)
ちなみに本書の中の社会契約とは、労働者(市民)、企業、政府の3社間での権利と義務のバランスを取る存在のこと。
この社会契約が時代や国によってどのように遷移し、どのような課題を抱えつつ現代に至ったのか。
これからの社会契約のあるべき姿とそのためになすべきことは…についてわかりやすく解説されていました。
- 格差の拡大、深刻度を増す自然災害など世界が抱える課題は多い。そんな課題に対し国家、企業、市民はどうのように対処すべきなのか、について関心がある方
この記事を書いているGeroge(父)は、都内在住のサラリーマン。通勤電車のほぼ全てを読書に費やし、年間100冊程度の本を読んでいます(プロフィール)。また、家庭菜園も10年くらい楽しんでいます。
著者のアレックス・ロスさんは、アメリカ民主党議員ヒラリー・クリントンさんの元参謀だよ
資本主義の限界や課題を解説した本はたくさんありますが、本書は課題提起にとどまらず、解決策まで提示している点が特徴。
小説のようにわかりやすく示唆に富んだ一冊です
\ それでは、いってみましょう
社会契約とアメリカの現状
まず、「社会契約」と資本主義の代名詞、現代の覇権国家であるアメリカの現状について見ていきます。
社会契約とは
本書の内容を理解するため、まず社会契約というキーワードについておさえておきましょう。下の図を見てください。
(本書の内容をもとにGeorge(父)が作成)
社会を「政府」、「企業」、「労働者(市民)」の3者の関係で見た場合、どのような国においても
- 労働者は、企業と雇用契約を結び労働の対価として給与(金銭)を得る
- 企業と労働者は、得られた利益や所得から必要な税金を政府に納める(納税)
- 政府は、税収を元手に労働者(市民)や企業が安全に便利に活動するための公共サービスやセーフティネットを提供する
ということで社会は成立しています。
ここで、❶政府、❷企業、❸労働者(市民)の3社間には、権利と義務が発生しており、このバランスをとる仕組みのことを社会契約と呼んでいます。
資本主義の代名詞、アメリカの現状はどうなっているのか
著者の母国アメリカでは、さまざまな要因が重なり合って、政府の役割が大きく後退。G A F A Mなどの多国籍プラットフォーマが大きな力を持つようになり、所得格差は拡大する一方。
弱者を助けるセーフティネットも十分ではなく、世論は南北戦争以来と言われるほどに激しく分断され、決して良い方向に向かっているとは言えないと警鐘を鳴らしています。
その要因として以下の3点が挙げられています。
- 行き過ぎた株主資本主義
- 労働組合の弱体化
- タックスヘイブンを活用した租税回避
米国企業の行き過ぎた株主資本主義は、短期的な利益と株価上昇のみを目的とし、自社株買などの過剰な株主還元を実施。
その結果、資本家と労働者の格差拡大を助長し、自然環境も破壊。
株主資本主義がスタンダードになったことにより、労働組合も弱体化してしまいました。
極め付けが多国籍企業による租税回避。タックスヘイブンを巧みに利用し、本来払うべき税金を政府に納めない状況が長く続いたことにより、公共サービスや医療福祉など政府が本来の役割を果たせな状態に。
このように、政府と労働者(市民)が弱体化し、企業の力が増大しているのが現在のアメリカであり、多くの弊害が出ていると著者は指摘しています。
一方、その対局にあるといえるのが中国。
政府による徹底した経済統制と市民への監視により国の体制を保持。市民は自由を制限されることを受け入れる代わりに一定の経済成長・豊かさを享受。
このように社会契約が異なることにより、国や市民の暮らしも大きく変容することがわかります。
これからの世界をより良いものとしていくためには、この社会契約をあるべき姿を修復していくことが必要だというのが本書のメインテーマです。
社会契約が抱える課題の中でも、「タックスヘイブンを活用した租税回避」の話が興味深かったので、掘り下げてみます。
タックスヘイブンを活用した租税回避
タックスヘイブン(Tax Heaven)は、課税が免除されたり、著しく軽減されたりしている国や地域のこと。
世界で事業展開する多国籍企業が、税率の高い国で多くの費用を計上して利益を残さず、低税率国であるタックスヘイブンへ巧みに利益移転することにより、納税額が抑える手法のこと。
多国籍企業や富裕層がタックスヘイブンを利用して租税を回避することにより、アメリカでは年間2250億ドル(日本円で約30兆円 @140円で計算)もの本来得るはずの歳入が失われているとの試算も。
30兆円は、日本の1年間の税収と比較すると4割強の水準。
これだけの税収があれば市民が負担する税金をもっと抑えることができるし、セーフティネットの充実だったり、環境保護の予算に回したり、色々とできますよね。びっくりする金額です
以下の図は、タックスヘイブンを活用した租税回避のイメージです。
実際にはこんなに単純ではないのでご留意ください。ちなみに、このような租税回避行動は違法ではないことがこの話の難しいところです。
この問題は、2018年のパナマ文書によって、天文学的な利益を挙げている多国籍企業の多くがタックスヘイブンを活用して巧みに租税回避を行なっている実態が暴露され、世界中で改善に向けた変化の兆しも出てきているものの、一枚岩とはいかないようです。
タックスヘイブンで多額の税収を失っているアメリカ自身がタックスヘイブンとなっている実態があったり、世界有数のタックスヘイブンを実質的に支配しているイギリスの存在があったり…
タックスヘイブンはけしからんと言いながら、アメリカの州は低税率と監視の緩さを競い合い、最終的には自身の税収減に結びつくという負のスパイラル
大きな企業や一部の富裕層のみが利益を得て、途上国や貧困層には世界の便益が届かない…ますます格差が広がっていく現実。
環境破壊も貧しい途上国に皺寄せが…
本書の中では、この問題を解決するための多国籍企業に対するグローバルベースの新たな課税手法の検討など、より踏み込んだ解決策の提示もなされています。
まとめ
短期的な利益のみを追求する株主資本主義に対して、最近は自然環境や労働者をはじめ全てのステークホルダーの利益を追求しようとする動きも活発化。
バランスを崩した社会契約の修復の動きも見られるようになってきており、一方的に悲観する必要はないのかもしれません。
小学校でも、SDGs(持続可能な開発目標)など、環境問題や社会問題について勉強するようになってきたよ
どんな2030年代を迎えるかは、今行動するか、何もしない楽な道を選ぶかの2択であり、それぞれがどのような結果に至るのか。より幸せな未来を勝ち取るためにはどちらの道を選ぶべきなのか、について見つめ直す上で示唆に富んだ一冊でした。
本書ではアメリカや中国、欧州の社会契約について解説されています。
日本の社会契約に対する評価はあまりないのですが、今の日本を見つめ直すためにも、本書は有益だと思いました。
タイトルは小難しいですが小説みたいに読みやすいので、ジワジワとこれから売れてくる本ではないでしょうか
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜
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