「ウイルスや細菌は人間に害をなす得体の知れないもの」という認識の人は多いのではないでしょうか。
科学のことはさっぱりわからない文系人間の私もその1人。
そもそもウィルスや細菌って生き物なの?
生物の定義とは……みたいな哲学的な話も絡むので、この問いかけに対してはいろいろな考え方があるみたい
2023年末にゲノム編集の世界を舞台としたコードブレーカーという書籍を読んで、すっかりDNAやウイルスにハマってしまいました……
この流れで2024年元旦に読んだのこちらの本。「ウイルスとは何か」(著:長谷川政美)。
専門的な内容も含まれ、難解な箇所もありましたが、全体を通じて私の好奇心を満たしてくれる素敵な本でした。
個人的な備忘レベルではありますが、今回はこちら本をご紹介します。
- ウイルスと細菌の違いがよくわからない方
- ウイルスはヒトに害をなす悪者である、と思っている方
- ウイルスと進化に関する知見を深めたい方
\ それでは、いってみましょう
ウイルスは生物なのか
“ウイルスは生物なのか?”いきなり深い問いがやってきました。
この問いに答えるにあたっては、ウイルスと細菌という一見混同しがちなこの2つの存在に対する理解を深めることが肝要です。
ウイルスと細菌って、英語と日本語くらいの違いじゃないの?
細菌もウイルスも漠然と人間に害をなす悪いものというイメージがあるけど、この2つは全くの別物なんだよ
まずは“細菌”。
細菌は、細胞膜、細胞壁、細胞質、といった基本的な細胞構造を持つ単細胞生物。
栄養さえあれば、自ら成長し増殖することができるので、「生物」と言われます。
細菌の中には、乳酸菌や納豆菌など、人体に良い影響を与えるものもあれば、大腸菌やサルモネラ菌など食中毒や病気を人体に引き起こすものまで、さまざまなものがあります。
次に“ウイルス”です。
ウイルスは、細菌と違ってそれ単体では増殖できず、細胞の機能や構造などを利用してのみ増えることが可能である点が大きな特徴。
コロナウイルスやインフルエンザウィルスなどがありますが、過去の歴史を振り返れば、最も多くの人類が犠牲となった天然痘ウイルスなんかも有名ですね。
冒頭の問いかけに戻ると……
まず、宿主の細胞に依存せずには増殖できないため、ウイルスは“生物ではない”とする考えがあります。
一方、ウイルスも細胞や他の生物と同じく、DNAやRNAを構成要素とする遺伝情報を保持しており、感染や増殖を繰り返す中で進化する特性があることを捉え、ウイルスは“生物である”とする考えも。
ちなみに、本書の見解は後者“ウイルスは生物である”となっています。
「ウイルスは生物なのか?」の答えは、生物の定義によって、さまざまな意見が存在するということです
コロナウイルスは短期間の間に多くの変異体が生まれたけど、これがウイルスの進化なんですね。確かに生物みたい
コロナウイルスの感染源はコウモリ
ウイルスの貯蔵庫であるコウモリ
ウイルスとえば、多くの方の興味関心は“新型コロナウイルス”だと思いますが、本書内でも相応のページ数を割いて解説されています。
ヒトに感染するようになったコロナウイルスは7種あり、そのうち5種が「コウモリ」を自然宿主(自然界において寄生される生物)とすることは、ニュース等で知っている方も多いと思います。
コウモリは、コロナウイルスの他にもさまざまなウイルスと共生しており、著者は“ウイルスの貯蔵庫”と称しています。
どうしてコウモリにウイルスが集まるのかな?
コウモリには以下の特性があり、ウイルスが共生するための環境が整っているからとされています。
- 飛ぶことができ、行動範囲が広い(拡散力)
- 長い寿命(最長41年ものコウモリも!?)
- 捕食者が少ない
- 洞窟内で群れを形成しており、過密で感染しやすい(1つの洞窟に100万頭!?)
コウモリの駆除は適切か
コウモリがウイルスの貯蔵庫であるのであれば、コウモリを駆除すればいいのではないでしょうか
この点も解説されています。
例えば、日本人にとって馴染みのあるアブラコウモリは、農作物に被害を与える昆虫やさまざまな感染症を媒介する蚊を食べてくれているので、この駆除が適切であるとは言えないだろうと筆者は述べています。
アジアのヒダクチオヒキコウモリは、一つの洞窟に300万頭も集まって生活しており、農作物に悪影響を与える昆虫を1日14トンも食べているそうですし、コウモリがいなくなれば、果樹や農作物の受粉にも影響が出るだろうと言われています。
人類が恩恵を受ける自然界は、微妙な生態系のバランスの上に成り立っているため、コウモリ駆除の影響は計り知れないといい、
著者は、“病原体の貯蔵庫である野生動物の生息地である森を切り開きすぎた。90億人の人口を支えることはいずれ限界が来る”と警鐘を鳴らします。
ウイルスの視点と変異
“人類の歴史は感染症との戦いの歴史”ですが、生物の細胞に寄生しないと増殖できない(≒生きていけない)ウイルスの視点から眺めてみると面白いです。
ウイルスの目的が他の生物同様、より多くの子孫を残すことであるとすれば、現在の宿主から別の生き物へ共生する範囲を広げることは理にかなっているといえます。
ただし、ウイルスはそのままではヒトを含む他の生物へ感染することができないため、絶えず、感染できるように変異していくのだそう。
野生動物からヒトへ直接感染できるように変異したり、ヒトからヒトへ感染するようになるのもウイルスの変異(進化)。新型コロナウイルスでも同様の変異がありました
ウイルスは子孫を残すために弱毒化する
ある宿主にとっては害がないウイルスも、別の宿主にとっては有害であり、死に至らしめるということが往々にしてあり、人類の感染症の歴史そのものです。
ただし、宿主(ヒト)の死はウイルスにとっての死を意味するのでウイルスにとっても望ましい状況とはいえません。
このため、ウイルスが感染を拡大したのちは、弱毒化していく傾向があります。
ウイルスが弱毒化していくことがよくわかる事例としてイギリスのアナウサギ駆除の話が面白かった。
- 食用として家畜化したアナウサギが大量に繁殖し農業被害が深刻に
- アナウサギを駆除するため、アナウサギにとって害のあるウィルスを散布
- 一旦は99%のアナウサギが駆除されたが、その後ウイルスが弱毒化
- アナウサギもウイルスに対する耐性を得て、個体数は増加に転じる
弱毒化による宿主との共生がウイルス本来の生存戦略ということなのか
まとめ 宿主は共進化するウイルス
本書を読んで、ウイルスはそれ単体で生きることはできず、絶えず宿主との関係が重要となることがよく理解できました。
また、これまでの歴史の中で、ウイルスが持つDNAがヒトのDNAに内在化されていることがわかっていて、これらは、外部からの新たなウイルスの感染による重篤化を防いだりしているそうです。
これを考えると、ヒトにとってのウイルスもまた、なくてはならない存在であると言えそうですね。
本書の伝えたいことの本筋もこの点にあると思われます。
本書は、ウイルスに関する研究事例や科学的論拠がたくさん掲載されていて、わかりやすい良書。
得体の知れないウイルスに興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてくださいね。
大学生の時にハマった“寄生獣”という漫画を思い出しました……
「われわれは一人では生きられない、か弱い生き物なんだ(by ミギー)」。
この漫画についてもそのうち紹介したいと思います
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜。
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