本書のメインテーマはずばり「学ぶことの本質」と「今日的な教育へのアップデート」です。
“冒険の書”というタイトルの通り、本書は、過去の偉人たちが残した書物の世界へタイムスリップ。
さまざまな気づきを得て次の問いに挑むことを繰り返すのですが、素敵な挿絵なんかもあり、冒険気分が味わえます。
内容もさることながら、目次や文章構成の部分でも工夫を凝らした作りになっていて、
著者のクリエイター気質がひしひしと伝わってくる素敵な本です。
学びと教育論を軸としながらも、哲学書のような、著者の想いが全面に出てくる場面があったり、
とにかく刺激に満ちた本なので、多くの人におすすめしたいです。
スラスラ読めるので、365ページもある感じはしないですね。
興味をそそられる表紙や、ところどころに挿入される挿絵など、本の装丁自体がかなり凝っている印象を受けました
過去の偉人の書籍を筋道立てて読み解きながら、今日的な教育のあり方について考察していく点が斬新だよ
著者の孫泰蔵さんは、あのソフトバンクの創業者、孫正義さんの弟。
人気のスマートフォンアプリ、「パズル&ドラゴンズ」で有名なガンホー・オンライン・エンターテインメントの創業に携わった起業家であり、最近(2023年時点)はスタートアップ支援等を行なっているようです。
本書では、「能力主義の否定」であったり、「学校不要論」など、
かなり刺激的な主張が展開される箇所もあるため賛否両論はありそうですが、
個人的には著者のパッションが全面に出ている素晴らしい本だな思っています。
最近流行りの“アンラーニング”という言葉の意味も本書を読んでようやくしっくりきました。
なるほどなぁ〜と感じた点を中心に紹介していきたいと思います。
- 今後のキャリアに思い悩むすべての人
- こどもの将来や教育に漠然とした不安を感じている親御さん
- 既存の概念を覆す、新しい価値観・思想に触れたい人
- これからの時代を生き抜く思考法に興味がある方
- 偉人の言葉にまみれながら、著者と一緒に思考の冒険に出たい方
\ それでは、いってみましょう
著者の主張と課題認識
最初に言ってしまうと、著者の主張は、「学びはもっと自由で楽しくあるべきだ」、
だから、「時代遅れの能力主義に基づいた現代の教育システムを再構築する必要がある」になります。
この主張に辿りつくまでの著者の課題認識(問い)は以下のとおりです。
- どうして学校の勉強はつまらないのか
- どうして「遊び」と「学び」や「仕事」を区別する考え方が浸透したのか
- どうして「学力」を高めないといけないのか
- どうして好きなことだけして生きてはいけないのか
- 人は何のために学ぶのか
本書は、この課題認識(問い)を過去の偉人たちの書の力を借りながら解き明かしていく冒険の物語です。
過去の偉人の書物からさまざまなヒントや気づきを得つつ、話は進みます
「もっと遊んでいたいのに、毎日学校に行かなければならないのはなぜか?」
「こんなにつまらない勉強をして一体なんの意味があるのだろうか?」
と誰しもが1度は考えたことがあるのではないでしょうか。
また、親も子供を心配するあまり「将来苦労しないためにも、今勉強しなさい」と言うのはなぜか。
もはやこれは呪文や念仏の類w
たくさん勉強して、学力を伸ばして良い学校を卒業して大企業に就職して……というのが幸せになるためのルール(昭和のね)
つまらない勉強の後には、自由と幸せが待っているはずだ!
って本当にそうなのかな?
学校は機械化人間を大量生産する工場
著者は、学校は画一的な工業製品のような人間を大量生産するための工場になっているといいます。
オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチは著書「コンヴィヴィアリティのための道具(1973年)」の中で、学校は、
- ちゃんと食べていける労働者になるための技能の訓練をする場
- 社会の一員として規律を守る人間になるためのしつけの場
- 良い人格を持つ立派な人間づくりの場
の3つが合体した場所であると説明しています。
いい換えると、「社会に子供を適合させる」ことが学校の目的になってしまっているということすよね。
本来の学校は、「子供達が自ら現状を変えていけるように、現状から解放されるような教育をする場でならないといけない」というのが著者の主張。
でも、学校という仕組みがあるからこそ、それまで教育を受けられなかった子供達が等しく教育を受けられるようになった側面もあるよね?
子供の人権や貧困の解消が解決すべき大きな課題であった時代であれば、社会に適合できる人材を育てるという現在の教育システムはかなりイノベーティブだったと著者も述べています。
あくまで、機械化やAI技術が発展して世の中は大きく変化しているのに、教育だけが昔のままではまずいぞ、と言っているんだね
能力信仰は間違っている
学校が子供たちを社会に適合させることを目的としたつまらない場所になってしまった理由の1つとして、
強い「能力信仰」があるといいます。
ほとんどの人が、
「能力を高めることこそが、幸せになるための唯一の方法だ」、
「勉強して能力を高めると、きっといいことがある」と信じ、
親は子供に対して「今、一生懸命勉強して能力を高めておかないと、大人になっても生活できないぞ」、
などと脅して勉強するように仕向けます。
我が家もそう……
この「能力信仰」のせいで、勉強をする意味を見出せないまま、
とりあえず良い大学に入ることだけを目的に勉強している子供がたくさんいます。
うんうん。それで、結局のところ能力が高いとか低いってなんなんだろうね?
この問いに対して著者は、「行動して、良い結果に結びついたから、あの人の能力は高いのだろう」となるのであって、能力が高いから良い結果につながるとは、必ずしも言えないと答えます。
つまり、能力というのはあくまで結果論であり、同じようなことをしている他人との比較でしかない。
それにも関わらず、「能力を高めれば報われると信じた」。
これが「能力信仰」と呼称しているもので、学校をただの能力工場のための訓練所としてしまっている大きな要因の1つです。
こんなこと考えたこともなかったなぁ
機械により人は奴隷になった
どうして、このような能力信仰が成立するようになったのでしょうか。気になりますよね。
それは、人間を労働から解放すると期待されて登場した「機械」の存在が影響していると言います。
どういうこと?
実はこの「機械」の登場で、人は機械を扱うための操作者として不毛な労働に従事するようになったことになり、
「機械」が作り出した商品をただ受け身で使い続けるだけの「消費者」となってしまいました。
人間を自由にするどころか、機械が人間を奴隷としてしまったのです。
「機械」は常に性能を向上していき、古い機械は新しい性能の良い機械にとって代わられる宿命です。
この考えが浸透した結果、人間も能力が高い方が良いという“能力信仰”に繋がったのだと著者は述べています。
なるほどねぇ。世の中が便利になればなるほど心が貧しくなる感覚を持つことがあるのは、この“能力信仰”にあるのかな?
なんて感じました
他にも興味深い考えがたくさん出てくるのですが、
ちょっととりとめがなくなりそうな気もするので、まとめたいと思います。
(まとめ)本書を読んで思うこと
最初に戻りますが、「学びはもっと自由で楽しくあるべき」なのだから、「時代おくれの、能力主義に基づいた現代の教育システムを再構築する必要がある」、
というのが著者のメインの主張だと理解しています。
ますます進化を遂げるであろうAIの時代に、知識を無理やり詰め込むだけの教育は無意味である、
といった批判は良く聞くようになってきたので、私も理解できる点が多々ありました。
一方、それではどうすれば良いの?
となると、その具体案が乏しい点は少し物足りない印象を受けました。
なお、著者の主張の中に、「基礎が大事」という考えも間違った信仰だ、というくだりがあるのですが、
ちょっと理解に苦しみました。
足し算と引き算ができなくて、掛け算、割り算は理解できないよなぁ……
「12歳までは本を読むべきではない」とも書いてあります。
好きな本ならいいけど、興味ない本読んでも読書が嫌いになるだけだし、逆効果だよね
全体通じて、既存の仕組みを組み替えることを生業とするイノベーターらしい尖った教育論が展開されているので、
私のような一般的なサラリーマンかつ子供を持つ親からすると全部を素直に受け入れることは難しかったです。
一方、それと同時に、こんな新しい世界観を論理立てて本にまでできることに感嘆しました。
実際、読んでいて面白いのですよね。
インターネットや人工知能の発展・普及によって、知識の詰め込みが付加価値を生み出さなくなる世界においては、「学び」と「教育」に対する考え方をアップデートしていかないとまずいよな、
という点を再認識できた点が、本書を読んだ1番の収穫です。
特に、子供のいる方は一度読んでみると、とても参考になる1冊だと思います。
「世の中のあたり前を疑うこと」、これからの世界では、「最初に答えを探しにいくのではなく、まずは正しい問いを作ることから始めること」、など、教育論以外でも、とても参考になりました
最後に、本書の副題にもなっているアンラーニングとは、
自分が身につけてきた価値観や常識などを一旦捨て去り、あらためて根本から問い直し、そのうえで新たな学びに取り組み、全てを組み替えるという「学びほぐし」の態度
引用元:冒険の書 AI時代のアンラーニング 著者:孫泰蔵
のこと。
どこまでできるかはわからないですが、この姿勢を持ち続けていくことが大事だなと、あらためて思ったのでした。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜。
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