紀伊國屋のビジネス書コーナーの目立つところに積まれている、「戦略の要諦」。
著者のリチャード・P・ルメルトさんは、「戦略の大家」とも呼ばれる戦略論、経営戦略論の世界的権威。
ルメルトさんの「良い戦略、悪い戦略(2012年出版)」をすぐに思い出しました。
そんなすごい人が書いた500ページもの大作。
やっぱり、世界的にも売れているらしい。
難しい本だということは肌感覚としてわかっていたのですが、勤め先で中期経営計画の策定を担うことになり……
ということで、とりあえずは読んでおかねば、と手に取ったのでした。
しっかり理解できているかわからないけど、せっかく読んだので感想文書いておきます
- 事業を営む会社経営者
- 企業の戦略策定等にたずさわるサラリーマン
- ミッションやパーパスに疲れている方
この記事を書いているGeroge(父)は、都内在住のサラリーマン(管理職)。通勤電車のほぼ全てを読書に費やし、ビジネス書を中心に年間100冊程度の本を読んでいます。(プロフィール)。
\ それでは、いってみましょう
目標を立てることを戦略だと勘違いしていないか
いきなりパンチの効いた見出しですが……
以下のような目標を掲げている会社って結構ありますよね。自分の勤め先もこんな感じです……
「3年後に売上100億円を達成するぞ!」、「お客様満足度でトップを目指します!」
これは、(おそらく)立派な「目標」ではあるのですが、「戦略」ではありません。
そもそも「戦略」ってなんでしょうか。
どのように目標に到達するかを具体化し、資源の配分や行動の優先順位を決めるための指針が「戦略」である。
とか言われます。
ルメルト先生の名著、「良い戦略、悪い戦略」から言葉を借りると、
戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること、別の言い方をするなら、最も効率が上がりそうなところに最強の武器を投じることである
となります。
せっかくなので戦略にまつわる偉人の言葉も紹介しておきます。
中学生には難しいな。
わかったようなわからないような……
そして、「目標」を策定することで満足してしまって、
肝心の「戦略」を真剣に考えていない企業があまりにも多いというのがイメルトさんの大きな課題認識になっています。
目標を立てることが戦略であると勘違いしてしまうようです
「期末試験で平均60点以上とる」が「目標」で、
そのために、「毎日60分塾に通う」が「戦略」です
なぜ、「目標」だけを設定して、まともな「戦略」がない、といった事態に陥るのか……
イメルトさんが解説している「90日ダービーの誘惑」という話が面白かったです。
90日ダービーの誘惑
アメリカの上場企業は、四半期ごとに財務情報を開示し、ガイダンス(業績予想)を発表します。
これをもとに企業アナリストが「売上高」と「1株当たり利益」を予想し、
これが株式市場(投資家)の期待値になります。
この期待値を下回ると株価は大きく値下がりするため、
経営者はアナリスト予想を意識せざるを得ない状況になります。
このため、自社の「課題」を解決する「戦略」に基づいた「目標」を設定するケースは稀であり、
経営者はアナリストの期待値を意識した数字を「目標」として設定するという誘惑に駆られてしまう、
というのが「90日ダービーの誘惑」です。
要するに、
実態にそぐわない「目標」を設定し、その空虚な目標に対してパッチワークのように「戦略」を繋ぎ合わせていくということが常態化し、「長期経営の視点が欠けてしまう」ことが当たり前になっているのです。
ルメルトさんは、
「目標」というのは、「戦略」の実践を管理するためのツールであって、「戦略」そのものではないのだと警鐘を鳴らしています
「目標(KPI)」を立てることが主役じゃないよ
正しい戦略策定のフローはこれだ!
「戦略」の誤解が解けたところで、
ルメルトさんが提唱する「正しい戦略策定フロー」をまとめておきます。
その前提として、良い目標の定義も確認しておきましょう。
良い目標とは
- 曖昧さがなく、単純明快であること
- 達成する方法がイメージできること
- 何をするべきで、何をするべきでないかを理解するための助けとなること
- 必ずしも、全員からの賛同が得られるものではないこと
「目標設定は戦略策定のためのツールである」という前提に立つと納得感があります。
戦略策定のフローとポイント
自分なりに意訳も入っていますが、ざっくりと言えばこんな感じです
戦略は、あくまで自社が直面している「課題」を解決するためのもの。まずは多様な視点で課題を洗い出すことからはじめる
立場が違うと捉え方が変わりますから、洗い出される課題は玉石混合。
経営リソースは有限な場合がほとんどなので、解決すべき課題に優先順位を付けていきます。
そして自社にとって解決すべき最重要課題を見極める
最重要課題が定まったら、解決の成否を決めるポイント(=ボトルネック)について吟味します。
課題解決を阻害している要因は何か、現実的な打ち手はあるのか、などを論点にすると良い
解決策を全くイメージできないような課題をテーマにしないように気をつける。
難しい課題がある場合は、解決できそうな粒度まで要因を分解してみることがおすすめ。
その上で、短期的には無理でも、長期的な視野に立てば解決できる可能性があるものに絞っていく。
良くありがちな、「財務」だったり、「予算編成」とは切り離して考えることも大事
戦略の基本は絞り込むこと。
間引き(摘果)をすれば元気な苗はいっそう強く伸びるのだ
ミッションもパーパスも戦略策定のためには無意味
世の中では、「ミッション」や「ビジョン、「パーパス」がバズワード化している気がします。
これらは意外と権限を行使したがらない経営者にとって逃げ道を用意する誘惑である、
とルメルトさんは厳しく指摘します。
戦略とは問題解決の特殊な形であり、それは長い旅であり、困難な課題への取り組みである。
ミッションステートメント作りに何日もかけるのは、戦略策定の観点からは横道に逸れていると言える
また、『企業たるものは「ミッション」を掲げ、すべての意思決定はそれに基づいて行われるべきである』
といった風潮もある中で、多くのリーダーが戦略策定にあたって、問題・課題を吟味することなく、
「目標づくり」からはじめてしまうのは大きな間違いである、と明確に主張しています。
これは本当に同感です。課題に向き合わずに立てる戦略は、
中身すかすかですもん
戦略ファウンドリーのススメ
最後に、ルメルトさんイチオシの、企業の経営者が集まって戦略を練るためのワークショップである
「戦略ファウンドリー」の内容を少し紹介します。
「ファウンドリー(foundry)」とは、ざっくり、「工場」ととらえてください
「戦略ファウンドリー」とは、
経営幹部のチームが戦略と目標設定を混同しないにように導き、組織が直面する問題を洗い出し、診断し、最重要課題とそれを解決に導くための重要ポイントを見極め、どう取り組むかを議論する場。
本書のポイントでもある課題ベースのアプローチで戦略立案に臨むことが特徴です。
基本的な流れは、戦略策定のStepで示した、
「課題の洗い出し」→「優先順位付け」→「最重要ポイントの見極め」→「戦略(打ち手)の検討」
と変わり映えしませんが、実務者ではなく、企業の経営幹部を集めて取り組むワークショップということです。
この中で、「課題の洗い出し」フェーズで経営幹部から活発な意見を引き出す方法が参考になりそうでした。
課題を洗い出すためのヒアリング項目例
こちらです。
- 過去のプロジェクトについて、どれが成功して、どれが失敗したか
- その原因はなにか
- 現在直面する課題で、どれが最優先か
- 何が解決の阻害要因か
- (現実的な)打ち手はあるか
- 新しい技術のインパクト(脅威やチャンス)はどのようなものか
- 競合の行動はどうか
議論が停滞したときに工夫できる点も紹介されていたので、印象に残ったものを挙げておきます。
1つ目が、
7年前の会社の社長(CEO)にメールを送れるとしたら、どのようなアドバイスができるか考えてみる
2つ目は、
将来、フォーチュン誌で自分の会社で特集が組まれることをイメージし,どうすればこの巻頭特集のような結果を生み出せるか考えてみる
3つ目は、
有能な人材でチームを組んで、自社のライバル企業の立場から、自社に勝利する戦略と戦術を自由に立てさせる
1つ目は、「過去」
2つ目は、「未来」
そして3つ目が「現在」
にフォーカスし、自社の課題や強みを見つめ直していく手法としては面白いですよね。早速やってみたくなりました
自己分析とかにも使えそうな方法だよね
まとめ
今回の書評は、戦略の大家とも称される世界的権威、リチャード・P・ルメルトによる「戦略の要諦」について。
500ページ以上ある重厚な本でしたが、半分はルメルトさんがコンサルティングされた企業の具体例ですので、
想像していた以上にスラスラと読めましたし、多くの学びがありました。
会社の経営企画とか、戦略考える立場の方が読めば、大変参考になるのではないでしょうか。
経営に興味がある方であれば、読んで損のない1冊だと思います。おすすめです。
また、ルメルトさんの著書といえば、「良い戦略、悪い戦略(2012年出版)」も有名。
こちらも世界的なベストセラーになっています。
むかーし昔、若い頃に読んだので詳細までは覚えていないのですが、
「最重要課題を見極めて、資源を集中投資するのが戦略だ」といった内容で、本書に通じています。
「経営戦略のバイブル」とも呼ばれているので、こちらもぜひ読んでみてください。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜。
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