【書評No.25】日本はなぜ敗れるのか -敗因21ヵ条- 山本七平

養老孟司先生が紹介されていた山本七平著「日本はなぜ敗れるか」を読んだの感じたことなどをつらつらと。

目次

どのような本か

太平洋戦争の敗因について研究し、日本軍を組織論的に解説した本として、「失敗の本質」が有名ですが、今回は「日本はなぜ敗れるのか」という本についてご紹介します。こちらも名著といえる素晴らしい本でした。

本書は、著者である山本七平さんの戦争体験がベースではなく、

敗色濃厚であった戦争末期にフィリピンで捕虜となった小松真一氏が書き記した「虜人日記(りょじんにっき)」を題材に山本七平さんが解説する形の本となっています。

小松氏は、ガソリンの代替としてブタノールを粗糖から製造する技術者として民間から軍に召集された一人でした。

軍隊という組織に組み込まれていない地位にありながら、その内実に接することができる立場であったため、対人、対組織的なしがらみの影響を受けることなく、小松氏自信の体験をありのままに記録することができました。

山本七平さんは、この「虜人日記」の歴史資料としての正確性と希少性について高く評価しています。

George(父)

虜人日記を読むと、事実と意見が淡々と記録されていることに気づきます。
現地性と同時性。情報過多な現代には特に気をつけないといけないポイントだと思いますが、虜人日記は歴史資料としての一次情報ということですね

敗因21ヵ条

この虜人日記の中で、小松氏の体験をもとに日本の敗因21ヵ条として以下の通り記しています。

日本の敗因。それは初めから無理な戦いをしたからだといえばそれにつきるが、それでもその内に含まれる諸要素を分析してみようと思う。 

一、精兵主義の軍隊に精兵がいなかった事。

然るに作戦その他で兵に要求されることは、総て精兵でなければできない仕事ばかりだった。武器も与えずに。米国は物量に物言わせ、未訓練兵でもできる作戦をやってきた

二、物量、物資、資源、総て米国に比べ問題にならなかった

三、日本の不合理性、米国の合理性

四、将兵の素質低下 (精兵は満州、支那事変と緒戦で大部分は死んでしまった)

五、精神的に弱かった (一枚看板の大和魂も戦い不利になるとさっぱり威力なし)

六、日本の学問は実用化せず、米国の学問は実用化する

七、基礎科学の研究をしなかった事

八、電波兵器の劣等 (物理学貧弱)

九、克己心の欠如

十、反省力なき事

一一、個人としての修養をしていない事

一二、陸海軍の不協力

一三、一人よがりで同情心が無い事

一四、兵器の劣悪を自覚し、負け癖がついた事 

一五、バアーシー海峡の損害と、戦意喪失 

一六、思想的に徹底したものがなかった事

十七、国民が戦いに厭きていた

一八、日本文化の確立なき為

一九、日本は人命を粗末にし、米国は大切にした

二十、日本文化に普遍性なき為

二一、指導者に生物学的常識がなかった事

順不同で重複している点もあるが、日本人には大東亜を治める力も文化もなかったことに結論する

「日本はなぜ敗れるのか」著者:山本七平、 「虜人日記」著者:小松真一氏

いくつか印象に残った点を紹介します。

精兵主義の軍隊に精兵がいなかったこと

小松氏が21ヵ条の最初に書き記した「精兵主義の軍隊に精兵がいなかったこと」。おそらくこれが小松氏にとって一番訴えたかった敗因であると著者は推察しています。

当時の大日本帝国陸軍は17師団で構成され(1師団は2万人)ており、仮想敵国ソ連の100個師団とは比較できるレベルにないほどの劣勢。また、米国と比べて火力も大きく劣っており、アメリカの海兵隊に対抗できるのは17師団のうち1〜2師団程度と見積もられていました。

日本の中にもこの劣勢な実力を的確に把握している人々もいたようですが、この現実を指摘すれば非国民的な扱いを受けることになるため、皆沈黙を守っていました。

制海権のない海に旧式の輸送船でろくな護衛もつけずに兵員を輸送。その多くが撃沈されているにもかかわらず、その非常識を誰も訴えることができない状況…

そこで日本は精神力の世界に逃げ込む。数では劣るが個々の芸(能力)が優れていれば敵を打破できるという思想が根付くことに…

例えば、100発中100発当たる大砲1門と100発中1回しか当たらない大砲は実質的には同じとみなされ、大砲の命中度上に全力が注がれました。

しかし、フィリピンのジャングルのような特殊な環境では、これらの優れた特殊技術(=芸)は全く役に立たなかったと言われています。

芸が優れていることは素晴らしいことですが、それを活用するための環境がわずかに異なるだけで、一瞬で役に立たなくなることに気付かなかった現実が、本書で浮き彫りにされています。

けー(中1長男)

武田の騎馬隊が織田・徳川連合軍の鉄砲戦術に敗れたこと、天下無双の宮本武蔵が大阪の陣で全く活躍できなかったのと同じかな

帝国陸軍に精兵がいなかったと言えば嘘になる。陸軍の中にも精兵はいましたが、環境が変わる中で一瞬でその存在は無きに等しい状態になったと筆者は主張します。

「条件が同じであれば、芸に秀でている日本軍が負けるはずがない」という言葉に逃げ、「現実には条件的に不利であること」を無視した。

つまるところ、「できないことはできない」、「できることをできる」ということを言わないことを人間の資格としたことが敗因であると断定しています。

George(父)

これは、今の日本の政治や大企業でも散見される状況ではないでしょうか…多くの人が上席や周囲の顔色ばかりうかがうことに終始し、本質的な部分から逃げる感じが似ている。。。

物量さえあれば勝てたという間違った思想

太平洋戦争は物量で負けたという人が多くいるが、だとすれば物量があれば勝てたのか。

ひとことで物量といっても、物量は人間の精神と力によって生み出されるものであり、その中には科学者の精神も農民や職工をはじめ、全国民の精神が含まれるとの認識がなかった。

この点を見落としていた時点で、たとえ充分な物量が充足されていたとしても勝つことはとうていできなかっただろうと著者は言います。

戦争は軍隊のみで戦っているのではなく、全国民の精神力(国力=物量)が必要なのに、開戦に踏み切ったのは精兵主義という「芸」に対する絶対的な自信でした。

指導者に生物学的常識がなかった

太平洋戦争はほとんどの戦場において飢餓との戦いだった。人間は生物である。

飢餓状態に陥った人間は、その考え方も生き方も行動の仕方もまったく違ってしまうこと、そしてそれは人間が生物である限り当然なこと。

にもかかわらず、そのような人の行動を非難罵倒するのは生物学的常識の欠如した人間の証左であると著者はいいます。

つまり、人の口に食べ物を届けることが社会機構の基本であって、これが途絶えれば社会(軍隊)は崩壊するということ。

これをわかっていない軍指導部は、兵站を考慮することなく、火力で劣る分を人の数で補いつつ、戦線を拡大していった。

「兵力は送り込むが、火力がない」だけでなく、生物にとって絶対的に不可欠な「食料がない」。

これでは絶対に勝てないですよね。

まとめ

さいごに、小松氏が敗戦を見据えた日本で自らが貢献できることを日記に記していたことに大きな感銘を受けたの紹介します。これはフィリピンの過酷な収容所の中で記したもののようなのですが、信じられますか?

日本に帰ってからの職業

自分は明治製糖と縁を切って出てきたので帰国すれば天下の浪人だ。今後何をすべきか色々考えてきた。

サラリーマンではとても暮らしてゆけそうにもないし、何か事業でも興そうか。今後の日本が最も必要とすることで我々にできそうな事というと範囲は大分狭められてくる。そこで考え付いたことが四つあった。

第一は家畜飼料製造会社だ。方法は空中窒素を硫安として固定し、これを酵母に消化させ蛋白質(人造肉)として飼料化する事だ。これは実行も簡単で、資金集めをして始めたいと思う。

次は、海に無尽蔵といわれるプランクトンを集めて家畜の飼料とする事だ。着想は大は鯨、小は鰯に至るまで無数の海洋生物が餌としているプランクトンを直接人間が集めて陸上生物の餌とする。このプランクトン採集法は目下研究中だ。

第三は熱帯の海岸に群生しているマングローブ樹、これは海水中から真水を吸収して生活しているのだが、この海水から真水を分ち取る組織の研究をしたら、海水中の食糧を燃料なしに(少くて)とれるわけであり、又あらゆる溶液から可溶性物質が取れるわけだ。これも大いに研究してみなければならん事だ。

第四は、白蟻にある。白蟻は木材を食べて生きているが、それは彼の胃腸に木材を消化する力があるからだ。木材繊維を分解して糖分にするには、高圧で酸分解せねばならないのだが、白蟻はそんな事をせずに生活している。それは白蟻の消化器内に木材を分解し糖化するバクテリヤが棲んでいて、その菌の作用でできた糖分を白蟻が吸収するというのだがこの菌の生活史をよく研究してみたら木材を簡単に糖化することが出来るのではないかと思われた。

「虜人日記」著者:小松真一

捕虜の身でろくに食料も与えられず、過酷な労働を強いられる環境に身をおきながら、自らと日本の将来についてここまでのことを考えることができる小松氏。

一体どんな人物だったのでしょうか。

平時であれば、どこかおかしい、と気づけるだろう不合理な選択の数々。不合理だとわかっていても止めることができない集団心理など、極限状態における国や人間の描写が心に突き刺さりました。

あらためて、生きるに充分すぎるほどの食べ物があり、あらゆる多様性に囲まれ自由を謳歌できている現代の日本の日時がどれだけ幸せなことなのか。

そんな当たり前のことに気づかせてくれた本でもありました。

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この記事を書いた人

40代都内サラリーマン🧑‍💼 妻1人、子供3人の父
新しいもの好きで飽きっぽい性格。人生とことん楽しむために、仕事も頑張る
座右の銘は「知らぬが仏、忘れるが勝ち」
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