2001年、大阪に誕生したユニバーサルスタジオジャパン(USJ)。開業当初こそ来場者数は1100万人を計上したものの、その後低迷し、2004年には経営破綻していることをご存知でしょうか。
開業に伴う多額の有利子負債や高コスト体質、「映画」にこだわりすぎたテーマ設定等が業績悪化の要因であると言われています。
そんなUSJですが、2022年には東京ディズニーランド(1,200万人)、ディズニーシー(1,010万人)を超え、日本一の入園者数1,235万人を達成。見事な復活を遂げています。
年間1,235万人の来場者数は世界3位!!
凄すぎですね~
USJの復活の立役者は、日本を代表するマーケター森岡毅さん。森岡さんはもともと世界的なスキンケア商品企業であるP&Gでマーケティングの仕事をされていましたが、2010年にUSJへ転籍。USJを大復活に導かれました(2023年現在は株式会社刀の代表取締役CEO)。
今回紹介する「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方」では、USJ復活の事例を題材に森岡さんのマーケティングに対する考え方やフレームワークがわかりやすく解説されています。
2016年発刊の本(もう7年前)ですが、今読んでも本当に面白いです。
マーケティング勉強しないとヤバい!という気持ちにさせてくれます
この記事を書いているGeroge(父)は、都内在住のサラリーマン。通勤電車のほぼ全てを読書に費やし、年間100冊程度の本を読んでいます(プロフィール)。また、家庭菜園も10年くらい楽しんでいます。
- USJ復活の秘密を知りたい方
- あらゆるビジネスに役立つマーケティングの基礎を知りたい方
- 森岡毅さんのファン
\ それでは、いってみましょう
USJ入場者数の推移
森岡さんがUSJにやってきたのが2010年。以降右肩上がりのV字回復を遂げています。USJ復活の契機としてはハリーポッターの企画が有名ですが、そこに至るまでには緻密に計算された森岡さんのマーケティング手腕があったのです。
「価格を下げて集客を増やすことは誰にでもできる。マーケターの仕事は、価格も上げて集客数もあげ、往復ビンタで会社のトップライン(=売上)を伸ばすこと」であり、「USJがV字回復を遂げることができた要因を1つ挙げるとすれば、それは「消費者視点」という価値観と仕組みを導入したこと」であると森岡さんは述べられています。
「消費者視点」がマーケティングの真髄。本書のタイトルとも関連する肝の部分ですね
それでは、森岡さんがどのような手法、考え方でUSJを復活に導いたのか、本書の内容に沿って紹介します。
USJ復活に向けて着眼した3つのポイント
USJ復活に向けて森岡さんが着目し、取り組まれたポイントが大きく3点紹介されています。
ターゲット顧客層の幅
マーケティングの基本は、「どう戦うか」の前に「どこで戦うか」を定義すること。
ご存知の通り、USJは「映画」を軸とした「映画ファンだけのテーマパーク」でした。ただ、冷静に考えると世の中には多くのエンタメが溢れていて、映画を楽しむ人はエンタメを楽しむ人々全体の10分の1に過ぎません。
ただでさえ関東の3分の1しかない関西市場をさらに小さく扱うことで、USJは自らを辛い状況に追い込んでいました。
この点に着眼し、森岡さんはUSJを「映画の専門店」から「世界最高のエンターテインメントを集めたセレクトショップ」へ脱皮させる。映画だけにこだわることはやめ、アニメやゲームなど多くのジャンルでブランド投入する方向へ舵を切ったのです。
アニメやゲームを投入すると、自然と狙うべきターゲットは大人だけでなく、ファミリー層まで広がることになります。
ファミリー層は子供が大人になって再度来場するなどリピーターになる確率が高いため、テーマパークにとって有力なコアターゲットとして定め、ここを訴求する戦略を採用しました。
TVCMの質(Promotion)
マーケティングにおけるプロモーション(Promotion)です。
来場者はUSJに何を求めてやってくるのか、消費者自身も気づいていないインサイト(本質的なニーズやウォンツ)を捉え、訴求し、USJのブランドイメージを訴求するため、テレビCMの質の改善に取り組みました。
一例として、USJのクリスマスイベントを小さな子供を持つファミリー層向けに訴求した以下のCMフレーズが秀逸すぎて泣けてきます。
「いつか君が大きくなってクリスマスの魔法が解けてしまうまでに、あと何回こんなクリスマスが過ごせるかな」
5回!
1回!
USJのクリスマスCMのYoutube。森岡さんが関わった2010年以降のCMが随分と雰囲気変わるのがわかって面白いです
USJのクリスマスCM特集
チケット価格の値上げ(Pricing)
2010年のチケット代は5,800円でしたが、値上げに取り組みました。
世界のテーマパークとの比較、日本の所得、他の物価と比較すると低すぎる。日本最大のテーマパークである東京ディズニーランドが2010年当時で5500円。業界価格を低く抑える原因の1つとなっていました。
会社の飲み会に1回参加すると5000円くらいかかることを考えると、確かにTDL5,500円は安い気がしますね
……
関東市場に居を構えるTDLはこの価格設定でもやっていけますが、他のテーマパークは継続的な投資余力を捻出できず、その多くが経営危機に陥りました。
ただ、プライシングは本当に難しい問題で、何も考えずに値上げして、来園者が減るのでは本末転倒。前述したターゲットの明確化やTVCMによるブランドイメージの強化を図りつつ行うことが重要となります。
USJにおいても、非常に難しいチャレンジでしたが、結果としては、チケット単価を1.2倍、集客を1.9倍に伸ばすことに成功しています。
マーケティングの目的はトップラインを伸ばすこと
ちなみに、「売上高を伸ばそう!」という際には、まず売上高を要素分解することが重要です。
マーケティング観点からはたとえば以下のような形で売上高を構成する要素へ分解します。
売上高 = ①消費者の数 × ②認知率 × ③配荷率 × ④購入率 × ⑤平均価格
コントロールできそうな項目はどれで、コントロールできないものは何か。どこが最も重要なビジネスドライバーになり得るか、を特定し、そこに適切なリソースを投入していくことになります。
USJの場合は、映画の専門店からエンタメセレクトショップへのテーマ変更を通じ❶消費者の数、を拡大し、テレビCMの改善により❷認知率を、向上。
最後に緻密な値上げ戦略により❺平均価格、を改善したことがV字回復につながったということでしょうか。
マーケティングに必要な戦略思考とは
マーケティングに限らず経営全般においては戦略思考が必要となります。
あなたは、戦略と戦術の違いを明確に説明することができるでしょうか。本書では、戦略と戦術を以下のとおり定義してます。
戦略 | 目的を達成するために資源(リソース)を配分する「選択」のこと |
戦術 | 戦略を実行するためのより具体的なプランのこと(実行計画) |
なぜ戦略が必要なのかといえば、それは、①達成したい目的があり、②資源(リソース)は常に不足するから、と言えます。
最近は、人員不足が最大の課題だと言っている会社が多いですよね。リソースは、「ヒト、モノ、カネ、情報、時間、知的財産」など多岐に渡りますが、1番大事なのはヒトであると森岡さんは述べています。
戦略的に考えるとは、
①目的は何か、②戦略をどうするか、③戦術はどうするか、の順番で考えることで、目的や戦略が明確にならない中で、どれだけ素晴らしい戦術を考えても目的を達成することはできません。
この意味で、一番良いのは、戦略と戦術が両方ともGOODであることだということは容易に想像がつきますが、
一番悪いのは戦略がBAD、戦術がGOODの組み合わせであるという指摘がとても興味深かったです。
戦略(進む方向)が間違っているのに、戦術が優れていると、猛スピードで悪い方向に進んでしまうことになりますもんね。これは盲点でした
森岡流、マーケティングフレームワークとは?
本書の後半では、他の事例にも通用する森岡流マーケティングフレームワークについて解説されています。
マーケティングフレームワークとは必ず以下の順序で考えていく「型」のこと。以下ポイントを紹介します。
まず、自社が属する市場構造を徹底的に分析・理解・把握することからはじめます。
代表的なフレームワークとしては5C分析があります。
5Cとは「❶Company(自社)❷Consumer(消費者)、❸Customer(中間顧客)、❹Competiter(競合)❺Community(ビジネス環境)のこと。これらを1つ1つ整理することにより、自社の位置付けを含む市場構造の理解が深まることになります。
目的(達成したいこと)がないことには戦略も戦術も立てられません。
とはいえ、実現不可能な目的を設定するのは控えた方が良く、実現性があるギリギリの高さを狙い、シンプルであることが重要。社員にとって魅力的なものであれば理想的。
経営資源を投下する目標(ターゲット)を考えます。USJが映画ファンからアニメ、ゲームを含めたエンタメにターゲットを拡大したように、ターゲットを変えると、以降の戦略・戦術が大きく変わります。特に重視するコアターゲットの議論も重要です。
消費者のインサイトを正確に把握することが重要。「ドリルを売るなら穴を掘れ」は、顧客が本当に欲しているのはドリルではなく、「穴」であるという消費者インサイトの重要性を表現した有名なことばです。
消費者インサイトについて迫る本も紹介しているので、ぜひこちらの記事もご覧ください
消費者が自社ブランドを買う根源的な理由とベネフィットを理解することにより、「何を売るか」が明確になります。
戦略が固まったら、最後に戦術です。
戦術:HOWとは、WHATをWHOに届ける仕掛けのこと。これを考えるにあたっては、❶Product(製品)、❷Price(価格)、❸Place(流通・配荷)、❹Promotion(販売促進)の観点から考える4Pというフレームワークが有名です。
この、WHO、WHAT、HOWがうまく揃うとビジネスは爆発すると森岡さんは述べています。めっちゃ説得力あります
まとめ
本書の最後には、「マーケティングが日本を救う」と森岡さんの熱い想いが語られていますので、マーケターを目指している方にとってはマーケティングの勉強だけでなく今後のキャリアを検討する上でとても参考になるのではないかと思います。
森岡さんの本は他にも何冊か読んでいますが、本書は、日本を代表するマーケター森岡毅さんが書いたマーケティングの入門書と位置付けられると思います。
とにかくわかりやすいし、USJ復活の歴史にドラマがあって面白いです。おすすめです。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜。
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