出張の際の機中で少しずつ読んでいた、司馬遼太郎の「この国のかたち」。とうとう最終巻を読み終えました。
1986〜1996年の約10年間にわたって文藝春秋で連載された本書最後のテーマが「歴史のなかの海軍」。本テーマを書き終えることなく絶筆となってしまったことは残念の一言です。
ただ、著者自身が一番書き残したかったテーマで最後を迎えたのではないかと想像しています。
司馬遼太郎は、悲惨な太平洋戦争を経験しており、そこで感じた当時の日本という国に対する強烈な違和感が日本の歴史を探索するきっかけになったと述べています。
この国のかたち(1)の「あとがき」に本連載に込められた司馬遼太郎の想いが記述されているので引用します。
終戦の放送をきいたあと、なんとおろかな国にうまれたことかとおもった。
引用元:この国のかたち(一)あとがき
(むかしは、そうではなかったのではないか)
とおもったりした。むかしというのは、鎌倉のころやあら、室町、戦国のころのことである。
やがて、ごくあたらしい江戸期や明治時代のことなども考えた。いくら考えても、昭和の軍人たちのように、国家そのものを賭けものにして賭場にほうりこむようなことをやったひとびとがいたようにはおもえなかった。
平和な時代に生きる私には想像もつきませんが、戦争という悲惨な体験を経て日本を見つめ直そうとした司馬遼太郎の心情が痛いほど伝わってきます
- 教科書とはまた違う視点から、日本の歴史や文化への知見を深めたいかた
- 司馬遼太郎が大好きな人
この記事を書いているGeroge(父)は、都内在住のサラリーマン。通勤電車のほぼ全てを読書に費やし、年間100冊程度の本を読んでいます。また、10年ほど家庭菜園も嗜んでいます(プロフィール)。
\ それでは、いってみましょう
歴史の中の海軍
司馬遼太郎といえば、明治初期から日露戦争の勝利までを描いた「坂の上の雲」や、江戸時代の廻船商人である高田屋嘉兵衛を主人公として描いた「菜の花の沖」など、船に関する作品が多いです。
そんな司馬遼太郎が、本書の最後のテーマとして選んだのが、「歴史の中の海軍」。
内容を簡単にまとめると……
- 世界史的な海軍はもともと商船を海賊行為から護衛することを目的に設立
- その後、大航海時代等を経て、世界は西欧列強による植民地支配の時代へ
- 植民地を多く持つ国が大規模な海軍を保有する構図へ(英国など)
- 一方、日本の海軍は、純粋に防衛のために設立された
- 山本権兵衛の手腕により、大国であり海軍力に勝る清国、ロシアとの大規模海戦に芸術的な勝利
- この2つの大勝利により、海軍が日本国民にとっての精神的な支柱となり、国力に到底見合わない海軍力の維持・拡大を続けてしまった(日本にとっての不幸)
- 海軍は機械であり定期的なバージョンアップによる膨大なカネ、財政的負担を伴うもの。植民地を持たない日本にここまでの海軍は不要だった
- 石炭ではなく、石油を燃料とする蒸気機関が主流となっている中、アメリカに石油を依存する構造で長期的な作戦活動が困難であることは明白であったにも関わらず、太平洋戦争に突入したことが大きな間違いだった
司馬遼太郎の筆はここで止まっているので、この続きがどのような展開となったのかは分かりませんが、
仮に続きがあるとすれば、無謀な戦争に突入せしめた当時の歴史的背景と反省と、日本の文化や国民性などを考慮したこれからの日本が進むべき道を提言してくれていたのではないかと想像します。
日露戦争までの日本を美化し、その後の日本を否定する司馬史観を批判する書籍や論説などを目にしますが、
私個人としては、ある種の正当な国家的危機感と合理主義により物事を推し進めてきた明治から学ぶことはたくさんあると感じています。
ある意味、明治までは江戸期の多様性が残っており、臨機応変に国際情勢に対応できた一方、日露戦争以降は言論がどんどん単一性を帯び過激になってきたのではないか……と思います
「多様性(ダイバーシティ)」や「心理的安全性」の重要性が日本にも浸透してきているのはとても良いことだと感じます。
多様性の重要性を科学的に立証している「多様性の科学」という本のブログ記事もあるのでよければこちらもお読みください
司馬遼太郎は、もと産経新聞社の記者であったからか、船や海軍について徹底的に調査しました。
膨大な書籍を集め読み込んだほか、ポルトガルの博物館に赴いたり、江戸時代の廻船の寄港地を訪ねたりと現地現物を確認する徹底ぶりには、感嘆させられます。
尊敬します
全編を通じての感想など
司馬遼太郎が10年の長期に渡り、文藝春秋の巻頭連載を飾った「この国のかたち」。1回1回の原稿量が限られていたことから、たくさんのテーマが取り扱われていました。
ただ、たまに数回に分けて同じテーマで綴られる回もあ理、読み応えがありました。
特に、明治から昭和初期の太平洋戦争までの歴史的変遷の問題を解説したテーマに力が入っていたように感じます。
また、300年続いた江戸時代の文化や、日本独特の神道の話など、日本は本当に「多様性」に満ちた国なのだと改めて気づかせてもらえたのも、本書を読んでよかったと思える点の1つです。
近代に入り正義とされた欧米化により失われつつある日本の「多様性ある文化や伝統」を大事にせねばと感じるようになりました。
第6巻では、司馬遼太郎自身の生い立ちにかかる随想などもあります。
司馬遼太郎に魅せられた人にはぜひ読んでいただきたいシリーズです。
せっかくなので、本書を読む前に読んでおくと良い個人的におすすめの本を紹介します
司馬遼太郎のおすすめ本(幕末以降)3選
司馬遼太郎以上に、日本という国を愛し、かっこ良く書ける小説家を知りません。
幕末以降のテーマに限定しておすすめの本を紹介します
❶坂の上の雲
司馬遼太郎の代表作の1つ。日本騎兵の父と称される秋山好古、バルチック艦隊を日本海海戦で打ち破った海軍の参謀秋山真之、俳人・正岡子規の三人を主人公に明治初期から日露戦争までを描きます。
日本の上場企業経営者の多くが座右の書に挙げる名作。
旅順要塞・二〇三高地を巡る攻防、バルチック艦隊を撃破した日本海海戦。物語が進むごとに盛り上がりが加速していきます。明治の英雄たちがカッコ良すぎて、本当に前向きになれる作品です
天気晴朗ナレドモ波高シ
❷燃えよ剣
幕末の武装集団、新選組の鬼の副長と呼ばれた土方歳三が主人公です。
新選組に関する書籍は数多くありますが、個人的には本書一択。
維新志士たちとの戦い、幕府瓦解後も戊辰戦争を転戦していく様は哀愁が漂い、感情移入すること間違いなしです。
侍の世が終わる転換期にあって時代に逆らい自らの意思を貫く様に感動を覚えます。
高校生の頃に読み、明治維新を知るきっかけとなった本です
幕末の難しい政治情勢などとっても面白く勉強できるよ。
漫画もおすすめ。土方歳三がカッコ良すぎる
❸花神
こちらも明治維新もの。本書では村田蔵六(大村益次郎)を主人公にその生涯を描いています。
大村益次郎は周坊国(現在の山口県)出身の百姓医の家に生まれた蘭学者。後に長州藩へ仕官し、戊辰戦争では天才的な戦いを展開した官軍側の総司令官。
かなり実直な人柄だったらしく、明治維新の数多の英雄の影に隠れてしまっていますが、この人はすごい。
読んで損なしの名作だと思います。
司馬遼太郎の代表作で、坂本竜馬を題材にした「竜馬がゆく」ももちろん素晴らしいのですが、本書も最高ですよ。まだ読んでいないようでしたらぜひ!
まとめ
「この国のかたち」は司馬遼太郎が亡くなったことで未完で終わりました。
いつも楽しみにしていた「あとがき」が読めなかったことが残念ではありますが、それを差し引いても余りある司馬史観、司馬遼太郎の想いにふれることができました。
司馬遼太郎のファンの方にとっては必読のシリーズかと思います。
最後まで読んでくれて、ありがとうございました〜。
記事を気に入ってくれたら、SNS等で拡散していただけると大変嬉しいです
\1ヶ月の無料体験実施中🎵/
Amazonのオーディオブック Amazon Audibuleはこちらから
\ にほんブログ村参加中〜クリックしてね /